<前世のお話>今世で大切な人と出会った意味が分かる過去生

「今世で大切な人となぜ出会ったのか知りたい」とクライアントが体験した前世とは

真っ暗で、何も見えない。ほんの微かに自分の手、洋服、髪を感じることができる。細くて白い手。華奢で指が長い。爪の形がよく、繊細な手だ。髪は柔らかくて金色に近い茶色。足には何か硬い物を履いているのが分かった。木製の靴だろうか。



しばらくすると、もう少し周りが見えてきた。質素な薄い茶色のワンピースを着て、白いコットンのエプロンをしている。丈はちょうど膝下くらい。手には買い物用のころんとしたバスケットを持っている。そうだ、今はお母さんの買い物のために、町まで来たところだ。今立っているところは、砂の道。辺りに人はいなかった。静かな、“町”とは名前だけの小さな所だ。茶色っぽい石造りの家が道に沿って並んでいる。



「家はこの近くですか?」という問いに、「はい。」と答える。そう、私の家は、この近く。でも自分の名前や、ここがどこなのかは分からない。町並みからするとヨーロッパのどこかのようだ。家の前に、瞬間移動のように到着すると、“お母さん”と心のどこかで認識している人が家の前にいた。私の帰りを心配そうに待っていてくれた。私はお母さんと二人暮らしである。お母さん以外の家族の記憶はない。表玄関の隣には、小さな柵で囲まれた場所があり、そこで羊を一匹飼っている。お母さんは、家の仕事と私の世話で大変だから、8歳の私は、お母さんを助けてあげたくて、沢山お手伝いをしようと心がけていた。



次のドアを開けると、どんよりした空。目の前には教会らしい建物があり、建物全体が見渡せるくらいの所に立っていた。周りに人は誰もいない。私は、どうしてここにいるか分からなかった。右手の方を見ると、お墓が並んでいる。お墓と言っても、木や石で十字架を立てただけの簡単なお墓だった。そのお墓で、老人が一人、もくもくとお墓の手入れをしていた。この老人は教会を管理している人で、ここに毎日いるのだ。



老人に話しかけると、おじいさんは、
「今日もお墓参りに来たのかい?毎日えらいね。」
と答えた。ああ、思い出した。お母さんは、しばらく前に死んでしまったのだ。私は今一人ぼっちで暮らしている。唯一一緒にいるのは、昔から飼っている羊一匹だ。私はこの羊を世話しながら暮らしていた。今私は15歳。学校はこの時代あったのか、なかったのか…私は行っていなかった。



次のドアを入ると、そこは緑の鮮やかな庭園だった。白いフェンスの綺麗なテラスにいた。私の服装は一転して、白い豪華なコットンドレスだ。装飾のレースがあらゆる所につけられ、リボンのついた大きな帽子をかぶっている。髪もエレガントにアップにしていた。もう7年も月日が流れていた。隣を見ると、素敵な男性がいる。この男性と楽しく会話をしているが、恋人ではないようだ。だが、この男性に対してすごく親しみを感じていた。雰囲気と、その人の放つオーラは分かるのだが、はっきりと顔は分からない。見ているのに見えない、不思議な感覚だ。



私は、この男性の父親に助けてもらったのだ。お母さんの死後、今から2、3年前のことだ。最初に記憶が蘇ったあの町で、いつもの通り一人で買い物をしていた時に出会った。一人でいる私に興味を持ったのか、彼が話しかけてきた。気に入られた私は、すぐに家庭教師として雇われた。そして、彼の所有する大きな白い3階建ての家に住み込むことになった。



26歳。私は小さな男の子と庭で遊んでいる。大きな迷路のような庭。通路両脇に美しく整然と植えられた緑と、花々が見事に調和していた。ここで、茶色の巻き毛の男の子と追いかけっこをしている所だった。大きなくりくりとした目が印象的なかわいらしい子だ。振る舞いと身なりから、育ちのいい子だとすぐに分かった。白いシャツに、茶色っぽい半ズボン。ズボンには吊りベルトがついていた。私のことを信頼してくれているのだろう。その子の微笑みからは、私に対する親しみが感じられた。私はあの日以来、この男の子と生活を共にする、教育係のような存在だった。暮らしに不満はない。私には過ぎた生活だった。何よりもこの男の子が大好きだった。でも、男性とその父親、信頼できる使用人たちと男の子と私で、家中に笑いが絶えなかった以前の生活は、もうなくなってしまった。国中の男は戦いへと出かけていったのだ。心に穴が開いてしまったようだった。無性に寂しかった。



大きな礼拝堂の窓からは、湖の向こうに見える森の中へと沈む太陽が見える。オレンジ色の光が窓から差し込み、ホールの中と私の頬を赤く照らしていた。私は一心に祈っている。大切な人が無事帰ることを願って。今、私が住んでいるのは崖の上に建っている建物だった。グレーの壁のヨーロッパの建物であった。事情はよく分からなかったが、戦乱の時代のせいだろうか。以前住んでいた白い家を後にし、私は、あの男の子と使用人1人とここへ移ってきた。3人には広すぎる建物だった。以前の白い家には明るい感じがあったが、ここはもの悲しい感じだった。この建物の最上階、大きな窓がある所が、今私がいる礼拝堂である。幾度となく見たこの風景。気高く、それでいて静かな吸い込まれそうな風景である。私の名前はシェーラ。



更に10年後の扉。入ると明るすぎて何も見えない。光の中に立っている(立つという感覚はなかったから、いると言った方が正確かもしれない)感じだった。ここはどこだろうか。その扉をそっと閉めた。



次の扉、私は28歳だった。周りは真っ暗だった。私は一人泣いていた。悲しくて、辛くて切なくて。大切な人がずっと帰ってこない。男の子を守らなければならないという確固たる意志とは裏腹に、不安で押しつぶされそうだった。



私が教育係をしている男の子は、あの白いフェンスのあるテラスで一緒に過ごした男性の子どもだ。あの人は結婚していたが、早くに奥さんを亡くし、家庭教師でありながら母親の代わりになる若い人を探していた。その事情をよく分かっている男性の父親―私が町で出会った―は、私をうってつけの人物として連れて帰ったという訳だ。私は、教育係として男の子と幸せに暮らしながら、家族のぬくもりというものが初めて分かった気がした。そして家族愛とは違う感情をあの人に抱いていった。



さらに次の扉。幼い頃一人寂しく暮らした家の前にいた。今は誰も住んでいない小さな家。町も家も昔のまま、ひっそりと佇んでいた。私は、少し大きくなった男の子と手をつなぎながら、複雑な思いで砂の道に立ち、家をただ見ていた。私の気持ちを察したのか、男の子も何も言わなかった。



馬を駆り、湖と森の見える私のお気に入りの場所に来た。そこからは、崖の一番上に私が男の子と共にここ数年暮らしたグレーの建物が見える。礼拝堂の大きな窓も見える。心の中はからっぽだった。髪と頬に当たるやや強い風に、全てをぬぐってもらおう。



いつもの礼拝堂にいる。いつかのあの日のように夕陽がホールの奥まで差し込んでいた。待っても、待っても、あの人は帰ってこない。苦しくてしようがなかった。人生が終わるまで苦しみが続いた。



この人生で学んだのは“忍耐”。この人生での学びがあったからこそ、今世ではご縁のある人たちと出会うことができていることに気付いた。

ヒプノセラピーサロンフェイス 藤井裕子



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2020年08月25日